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100％の「尊敬の意」を込めて、苗字のYに、嬢を付けて “Y嬢” と呼んだ。翌日からはクラス中が、〝Y嬢〟と呼ぶようになった。「Y嬢」は、とても穏やかで、欠点が見当たらない人だった。病気によって、当時は歩くのが困難になっており、車椅子を使用していた。彼女は１歳年上だったにも関わらず、私達との「隔たり」を一切感じさせなかった。それはひとえに彼女の「人格」によるものだと思う。
成績も常に１番だったY嬢。ガリ勉といった風は全然見せなかったが、一度彼女のノートを見たときには驚いた。こんなに丁寧にメモを執られたら、先生も教師冥利に尽きるのでは？ と思うほど、ノートには「情熱」が籠もっていた。〝この問題が正解だったのはただ１人〟。テスト用紙を返すときに、このフレーズを先生が口にする度、私達は心の中で（Y嬢！ ）と唱え、予想通り〝Yさんです〟。と先生が告げると、私達はホッとしたものだ。私達はその「予定調和」が凄く気に入っていたのだ。
私の父は転勤族だったので、父の転居先に伴われた私は、高校も２度転校した。そんなわけで、Y嬢と同じクラスメイトでいられたのは、たったの１年半。当時はまだ「携帯」がなかったので、手軽に繋がれる手段は「手紙」しかなかった。転校先が県外ということもあって、「電話」という手段は考えられなかったのだ。私達はかなり「筆まめ」だったので、週に１度、10枚位の分量の手紙をやり取りした。そんな密な「遠距離友情」は1年位続いただろうか。
それから二十数年の歳月が、あっという間に流れていった。————大学生活。浪人生活。就職。そして就職先での恋愛。結婚。出産。親との死別。自らの大病————。それら人生の「一大事」のときに、お互いがお互いの近くにいることは出来なかった。次第に私はY嬢を「思い出の中」に閉じ込めていった。
年に１度、年賀状でお互いの近況を知らせ合い、無事を確認し合う。そんな形だけの繋がりにいい加減、嫌気がさしてきていた。そこで今年、一念発起して、Y嬢に手紙を送ってみた。高校生の頃みたいな、長い長い手紙を。
それからは、『LINE』の応酬である。あぁLINEやらメールやらが高校時代にあったなら、Y嬢と私の仲も途切れることなく、その時々で同じ景色が見られただろうに。電話があったでしょうに、と思われるかもしれないが、当時の私の感覚では、親の手前上、何の用もないのに県外の友人に電話をかけるのは気が引けたのだ。
LINEのやり取りで、（お互い色んなものを背負っているな）と痛感した。Y嬢は職場で出会った人と結婚し、３人の子宝に恵まれた。が、長男とご主人との折り合いが悪く、一時期長男は行方不明になっていたそうだ。更には、ご実家のお父さんが難病を患っており、何くれと世話をしたいのだが、ご主人への遠慮もあって、なかなか実家には帰れない……、と辛い心境を吐露してくれた。
思い切り悩みを聞いたあとは、一緒に落ちていって暗くなるか？ それとも違う話題を振って、気分が変わるよう仕向けるか？ どちらを選ぶかは、Y嬢の反応を見て、復縁を提案した私の裁量で決めよう。とにかく、Y嬢に気に入られたい。また、熱狂的に仲良くなりたい。私達を取り巻く環境は、高校時代に比べて遥かに複雑になってきている。その複雑さをも含めて、再びY嬢と旧交を温めたい。
コミュニティ系RPGオンラインゲーム『MILU』は昨年、10周年を迎えた。これは、ゲーム業界では突出した長さであると言って良いだろう。長く愛される理由はいくつか考えられるだろうが、１つ確実に言えるのは、ある時期、『MILU』から離れたとしても、また『MILU』に帰ってくる。その風通しの良さにあるのではないか。
《去る者は追わず、来るものは拒まず》の気風が、10年という時の流れの中に、しっかりと根付いている。何を隠そう、筆者も2度ほど『MILU』を離れたことがあるが、現在はまた、魚釣りでコツコツとレベルを上げている毎日である。
Writer：ひねもす
