現代の日本では、親しい間柄での金銭トラブルを避けるために〝お金を貸す時は、プレゼントするつもりで貸しなさい〟もしくは〝お金を貸してはいけない〟…… その様に教わった方もいるのではないだろうか。やはり、お金の貸し借りはできる限り避けておきたいものだ。それでも私の父は、二十代後半の頃の西アフリカ・セネガル滞在中に、「セネガル人」と「マリ人」にお金を貸した。そこで彼はどの様な “経験” を得たのか？ 私はそこに着目して、彼の体験談に耳を傾けた。
まず始めに、セネガル人の警備員について記したい。その男性は、父の自宅兼事務所で雇われていた。初めて雇用した年末頃のこと。警備員は困った様子で “Ｙさん（私の父）、急な話で申し訳ないけれど、お金を貸して欲しいんだ„ と相談した。彼の子供が病気に罹ってしまい、治療に必要な薬を買うにはお金が足りないらしい。子供を診てくれた医者から告げられた言葉は “薬を買えないことには治療もできない„ それは貧しさ故の、「厳しい現実」であった。
話を聴いた父は警備員にお金を貸したのだが、その金額は警備員にとって、八ヶ月分の給料とほぼ同額だ。お金を貸した父の考えとしては、あげるつもりでいた。そして新年を迎えて暫く経った頃のこと。警備員は借りた分のお金をきちんと用意して、事務所へ持ってくる。治療薬が効いたお陰で、子供の病気は無事に治ったそうだ。その話を聴いているだけの私まで、心から安堵を覚えた。だが、借りた金額を返す準備には相当な苦労をしたに違いない。すると、父はそのお金を受け取らずに “プレゼントするよ„ と伝える。警備員は雇い主の厚意に対し “貴方は私の子供を助けてくれた。この恩は忘れない„ と感謝の気持ちを表した。
この出来事から暫くして、彼はもう一人の “律儀な人” に出会うことになる。
父が仕事で使っている設備があり、そこで必要になる新しい部品を用意してくれた鍛冶屋がいた。彼はセネガルへ出稼ぎに来た、マリ（セネガルの東隣）出身の青年だ。仕事を通して知り合った父に、彼は突然に “お金を少し貸してくれないか„ と言い出したらしい。父は彼に言われた分の金額を渡したが、内心では（まあ、お金は返されないだろうけど、別にあげてもいいか）と考えていたそうだ。裕福ではない暮らしの中で、どうしたら父の様な判断ができるのだろうか……、と私は首を傾げていた。今になってやっと分かったことだが、彼が警備員にも鍛冶屋にも、始めからあげるつもりでお金を貸したのは “善意” からの行動だったということだ。
その後は鍛冶屋の青年も、借りた分のお金を用意して持ってきてくれた。鍛冶仕事に必要な道具をどうしても買い替えないといけないが、そのための資金が不足していたから借りたらしい。そんな彼について、父は次の様に語っている。 “あの青年は逃げたりせず、きちんとお金を返してくれた。どこの国に暮らしていようと、その場所で律儀な人に会えるというのは気分が良いよ„
お金を借りた警備員や鍛冶屋、そして貸した立場である父の人間関係が壊れなかったのは何故だろうか。借りた物をしっかり返そうとしたから……、と表現してしまえばそこで終わりなのだが、私はこの体験談を掘り下げてみたい。人と人を繋ぐ要素が “善意” だとしたら、人間関係を円滑にするために欠かせないものは “恩義” ではないだろうか。私はその恩義こそ、インターネットとPCが存在して当たり前の社会に、「必要な習慣」であると考えたい。
多くの出来事が情報化されて、もはやPCで管理できないものは無いと、そう思えてしまうこともあるだろう。だが、そんな時代の影響を受けないものも確かに存在する。それは人間の心から生じている善意と “相手の善意に応える気持ち” ではないだろうか。私は父の体験談からその様に感じ取った。だが物体ではないものを実感することが難しい時もある。
そこで私は、昨年でサービス開始から十周年を迎えた、コミュニティ系RPGオンラインゲームの『MILU』を楽しむことを提案したい。『MILU』のメンバー様の習慣は、善意と恩義の良いサイクルを生みだし、「白ひげ鯨村」と呼ばれるゲーム内の舞台を賑わせている。それは情報化による無機質な管理に呑み込まれることが無い、「May I Like yoU（MILU）」の文字通り、自分から始める善意の第一歩なのだ。
投稿者：薪ストーブ設計マン
