初めて自分の “リラックス” のために使う長期休暇を頂いた。いつもは、子供の学校行事等で1日休む程度。こんなに長い休暇をとるのは、社会人になって初めてだった。なぜか、上司に申請しに行く時は緊張したものだ。理由は初の「海外旅行」。上司は快く“楽しんでおいで! お土産待ってるからね! „ と、休暇届に印を押してくれた。海外旅行に慣れている妹が、諸々の手続きはしてくれたものの、パスポートの申請から受領までは自分で行わなければならない。何もかもが初体験で、楽しみよりも不安が勝っていた。私の英会話力は中学生程度。さて、無事に「バカンス」を楽しむことが出来るのか……。
私の性格は一言で言えば「大雑把」。一緒に行く我が子も「大雑把」。旅行をアテンドしてくれる妹だけが「しっかり者」である。ワーキングホリデー制度で、一度その国に滞在したことがある妹も、その街は初めて。片手に『スマートフォン』を持ちながら案内しつつも、ホテルに着くまでに何度道を戻ったことか。ただ、初めての土地を歩くのは苦ではない。むしろ、初めて見る景色に“おぉー! かっこいい、おしゃれ!„ と、感嘆のフレーズばかり。しかし、成長期真っ只中の我が子は《花より団子》。景色を見ながら歩いている間に、ちゃっかり妹に“どこかで何か食べたい„ とリクエストしていたようだ。ホテルに向かって歩いているのかと思ったら、到着した場所は、ミシュランガイドで「4つ星」が付いているらしい、古い感じもしない、小さくて可愛らしいレストランだった。
レストランに入り、ソファーに座った時、ふと我に返る。何かがいつもの旅行とは違う。(両親が一緒じゃない旅行のせい?)とも思ったが、違う。そう……ここは海外。聞こえてくる言葉が一切、日本語ではないのだ。だから周りが何を思い、何を話しているのかが全く判らない。いつもだと、友人とランチをしていても、誰かの良からぬ噂話をしようものなら(隣の人がその人の知り合いかもしれない……)と、つい邪推が頭を過ぎってしまう。県外へ旅行に行っても、言葉は判る。聞きたくないことも聞こえてしまうし、理解出来る。しかし、ここは海外。もし、周りの人が私の批判をしていたとしても、私には全く判らない。人の目を気にしなくていいのだ。なんて “ストレスフリー” な場所なんだ! 「ビバ海外!」
さて、何を食べようか……。好き嫌いが多い私にとって、初めての料理は恐怖物である。英語で書かれたメニューを解読していた時だった。店員さんが私達のテーブルへ注文を伺いにきた、その瞬間。“What is recomme?„ ……聞き覚えのある言葉を、前に座っていた妹がサラッと発した。(今、確かにリコメって言った!?)
コミュニティ系RPGオンラインゲーム『MILU』に出会う前まで、全く知らなかった言葉、「推薦・推奨」を意味する「RECOMMEND」(リコメンド)。まさか、ここでいきなり聞くことになるとは。(そうか、「オススメ」という意味にもなるのか!)今まで『MILU』のプレイ中に何度も〝リコメありがとうございます〟〝ありこめです〟等と、よく見、よく発した言葉だったが、今めちゃくちゃ口に出して言ってみたい……! 例え、失敗したとしても、クスクス笑われても、私に向けられたのかは判らないのだから。「ビバ海外!」
レストランを去り、目的のアウトレットモールへ行く途中。ショッピング街で見かけたコスメ店にふらっと入ってみた。店舗内を別行動する3人。(よし……やっちゃえ!)完全に勢いで店員さんにオススメの『ティントリップ』を聞いてみる。リコメンドではなく、リコメと言ってみたい。その一心で。“ふ……What is your recomme 『Tint lip』? „ (通じたかな? 本当だったら「RECOMMENDED」が正しいんだろうけど……)ドキドキしながら返答を待つと、少し考えた店員さんは、ニコッと笑って“This one. „ ……今使ってるもの? 買い物には失敗したものの、片言でも話せる、通じる、 “コミュニケーション” がとれる。あんなに(言葉が判らないことが結果オーライ)と思ったのに。しかし、とても嬉しかったのだ。きっと、完全に理解が出来ないからだろう。
帰国して、久しぶりに『MILU』へログイン。〝○○ちゃん! おかえり!〟と、多くのフレンドが言ってくれた。画面越しで、顔も名前も知らない人でも、待っていて貰えるのはとても嬉しいものだ。今回、改めて「コミュニケーション」がとれることの嬉しさを確認出来た。そもそもは、楽しむためにゲームを始めたのではないだろうか。そこで、ストレスを溜めるなんて本末転倒であり、馬鹿らしいではないか。
生きて行く上で「周り」が気になるのは、どうしても仕方のないことだ。モラル、常識、世間体。現実社会でも『MILU』の世界でも同じだろう。いろいろトライしてみることによって、周りの目が気になることもある。例えば「個人商店」を出すときの金額の設定や「掲示板」への書き込み等。そんなあなたへ、お笑いタレント・太田光氏の言葉を贈りたい。
―――「みんなが、ってのが大嫌い。みんなってどこにいるんだよ。連れてこいよ、そのみんなを。俺とお前の話で、なんでみんなが関係してくるんだよ、って。みんながどう言ってたかって関係ないでしょう? ねぇ、みんな?」―――
コミュニケーションも大事だが、周りの些細な一言に敏感になりすぎず、たまには耳に栓をして遊んでみるのも “ストレスが溜まらない” プレイ方法なのかもしれない。
Writer:めしまま