❝ありがとう❞ の連鎖。 ̏ ペイ・フォワード ̋ の粋な演出。

❝ありがとう❞ の連鎖。 ̏ ペイ・フォワード ̋ の粋な演出。

ありがとうの連鎖 画像 payitforward

 
思いがけない心温まるサプライズに感激
ここ10年来、視聴している情報番組がある。早朝の、NHKニュース『おはよう日本』のコーナー『まちかど情報室』だ。毎週、月~金曜日に放送している番組の内容は、主に生活を便利にするアイデア商品をテーマ毎に分けて、お役立ち情報をお茶の間の視聴者に届けている。が、先日の放送回は異色の内容だった。
 

その日のテーマは …… つながっていきます。 古都・京都の四条河原町に店を構える或る焼き肉店が、昨年の11月29日(いい肉の日)から始めた斬新な新サービスに心が和んだ。番組で紹介された「つながる」企画とは《その席に座った前の客から、次の客に一品を「プレゼント」するサービス》。

 

お店を利用した客は退店する際に、店側が用意した10種類のメニューの中からプレゼントする料理一品を選び、カードにメッセージを記入する。先客が選んだ料理を、次に同じ席に座る客へ提供するというものだ。代金は店側の負担なので客の懐は痛まない。

 

次の客が着席後、メニュー表を見て品定めをしている目の前へ、いきなり頼んでもいない料理が差し出される。すると、大抵の客は 何これ、頼んでないよ?! と、面食らう。驚く客に店のスタッフが告げる。前のお客様からのサービスです と言って客に渡したカードには〝これ美味しかったよ!〟〝オススメ!〟云々のメッセージが添えている。「ドッキリ!」の事情を知った客の反応は、ほのかな安堵と共に感動の表情に変わる。何とも心憎い「サプライズ感」が満載の演出ではないか。

 

店側のコンセプトは、―― 優しさが連鎖。お客様からお客様へつなぐプレゼント ―― 。 ペイ・フォワード と称される「次の誰かの為の幸せのお裾分け」。日本初 を謳い、知らない人からの優しさが繋がるような、新しいサービスを提供したいと考案したらしい。ハートウォーミングな試みなので、今後は日本全国に拡がってほしいと切に思う。

 
 

日本に根付いている美徳の文化
アメリカで2000年に公開された映画『ペイ・フォワード』(ミミ・レダー監督)の中で、主人公のトレバー少年が中学生になった初日に、社会科の担当教師が新入生達に向けて課題を出した。 この世の中を良くするためには何をしたらいい? という問い掛けに、あれこれ悩んだ末に少年が導き出したのが 「ペイ・フォワード」――人から受けた好意を別の人へ回す――という方法だった。後に、この映画が発端になって「ペイ・フォワード」の概念は、パンデミックの如く世界中に拡がっていく。
 

「ペイ・イット・フォーワード/Pay it Forward」とは、直訳すると「先に払う」。日本語に例えるならば 恩送り という言葉が該当する。 とは、「恵み」や「慈しみ」のことである。昔からの慣習で、お世話になった人から受けた恩をその人に返すのではなく、別の人に返す行動を指す。

 

似たような例として、筆者にも思い当たる節がある。社会人として会社勤めを始めた頃、七歳年上で筋金入りの左党の先輩がいた。日頃から親身に接してくれた彼は、私の素性が《同じ穴のむじな》だと知って以降、折に付けてネオン煌めく夜の街に誘ってくれた。精悍な顔立ちでダンディーな先輩は、顔馴染みの店も多く《宵越しの銭は持たない》気前のいいタイプ。深夜に及ぶハシゴ酒は当たり前で、時には夜が白む頃まで付き合わされた。

 

二人で繰り出す酒席の勘定は、男気に溢れた先輩に全て奢ってもらった。総額にするとかなりの金額に上ると思う。常に奢られっ放しでは申し訳なく、給料日の後などは生意気を承知で 今日は自分が払います との申し出を制し 気を遣うな、誘ったのは俺だ と、頑として取り合わない。そして「どす」の効いた低い声が耳元で呟いた俺に奢る気持ちがあるのなら、お前の後輩に奢ってやれ 男前の飾らない台詞に甚く感服した。その時、粋でスマートな酒の飲み方について、暗黙のルールをひとつ学んだのであった。

 

酒豪の先輩から指南された「恩送り」を心に刻み付けてからは、後輩を飲みに誘った場合は先輩からの教示を守り、受けた恩を返すように心掛けている。そうやって、奢ってもらった後輩は、またその後輩へと「奢り」の連鎖が繋いでいくのである。見返りを求めない日本人の美徳であり、日本社会へ浸透した文化そのものであろう。

 
 
恩送りから授かる尊いキックバック
日本では昔から、困っている相手に親切を施すことで「功徳」を積むと云われている。巡り巡っていずれは自分自身に福をもたらす、という意味の《情けは人の為ならず》の諺が定着しているが、外国にも同じような言い習わしがある。表現は若干違うが似た意味合いだ。
《A kindness is never lost》/(親切は決して失われないので実行しよう)。
 

因みに、文化庁が10年毎に行う「国語に関する世論調査」では「情けは人の為ならず」についての理解度は残念な結果であった。〝人に情けを掛けて助けてあげても、結局その人の為にはならない〟などと、勘違いしている人の割合が半数近くを占める。「人の為ならず」の「ならず」の部分を「ならない」と曲解して誤用している日本人は実に多いのだ。

 

「恩送り」や「情けは人の為ならず」といった普遍的なモラルは、先進国や発展途上国に関わらず、人間社会の共通概念である。善意の意思を他者へ示す「恩送り」では、恩を返す相手を限定せずに、恩を受けた当人ではなく第三者へ恩を「送る」。すると善意の輪が社会全体に波及、人道上の崇高な行為の「善行」の連鎖が起きていくのである。

 

最近、己の利益ばかりを追い求め、相手に対価を求めるディール(取引)の常套手段を駆使して、〇〇ファーストを掲げる自己中心的なリーダーが目立つ。「奪う」行為は憎悪や、敵を生む。「共有」すれば、お互いの信頼関係が築かれ、尊敬の念が生まれる。「与える」ことで相手に感謝の念が生まれ、結果として充足感や幸福感を得られる。

 
 

「失う」ことばかりを危惧する思考回路は打算の産物だろう。見返りを求めず「与える」ことで生じる「無為の徳」に思いが至らないのだろうか。金品には代え難い、尊敬の念が自身に返ってくるのを知る由が無いのは残念だ。国の指導者や、企業、組織のトップは理性と抑制心を保ち、愚かな占有心を捨て去ることを願いたい。せめて、京都の焼き肉店が始めたささやかで粋な計らいの「ペイ・フォワード」の精神を見倣ってほしいものである。

 
 

Author:ブラックスワン

 
 
 

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