http://free-images.gatag.net/
私は中学で１回、高校で２回。７つ下の妹は、小学校でなんと５回。父の出世がトントンと進むと同時に私達姉妹の ” 転校 “ も始まった。
私は小さい頃から人見知りが激しく、小学校の低学年の頃までは、学校で一言も言葉を発しない日もざらにあった。小学校高学年になると、大好きなテレビ番組の話で、会話デビューを飾った。そんな私の初転校は、中３の２学期。
大分社交的になったとは言え、受験の学年でしかも県外への転校は、ハードルが高かった。もう何十年も前の事だが、あの頃の気持を思い出すと胸の奥がザワザワしてくる。私は、毎日サボらずに学校へ行くだけで、いっぱい-いっぱいだった。
転校当初の忘れられない思い出がある。転校第一日目に水泳大会の選手決めがあり、私はリレーのアンカーに選出された。選出された、と言うと聞こえはいいが、誰もなり手がいなかったから、ちょっとそこの転校生に任せちゃえ、という位のノリだったと思う。私は、必死に断った。リレーの選手どころか、25mを泳ぎ切るのがやっと、という実力である。だが、結局クラスの皆の声に押されて出る羽目になった。結果は恐れていたとおり。およそリレー選手とは思えない無様な泳ぎっぷりで、トップで引き継いだのに、ゴールしたときは、殆どビリに近かったと思う。私は、怒りで腸が煮えくり返っていた。（だから断ったじゃないか！……） 誰も私を責めはしなかったが、私は皆に食って掛かりたい心境だった。
だいぶ後になってから、クラスの子が私に打ち明けた。 “すごく怒っているみたいだったから、皆話しかけきらんだったんよ„ 私はクラスの皆が怖かったのに、向こうは向こうで、私を怖がっていたんだ。何だか拍子抜けした。
一方、妹はと言うと、もっと大変だった。何せ小学校は区割りが小さいから、それだけ小移動の引っ越しでも転校を余儀なくされる。従って、転校の回数が、私より断然多い。彼女は人間関係において、いやが上にも鍛えられていった。
当初、妹もかなり悩んでいる様子だった。（もっと外交的かと思っていたのに、案外人見知りするのだな）と考えた私は浅はかだった。私と彼女とでは悩みの次元が違った。とにかく休まずに学校へ行く事だけを考えていた私とは違い、彼女の願いはもっと先にあったのだ。ちゃんとどこかの仲良しグループに属し、友だちと会話を楽しむ。つまり彼女は、新しいクラスに溶け込むことを目指していたのだ。
大人になった今でも、妹は初対面の集まりでもすぐに自分を発揮できる。転校を数回繰り返して会得した技を駆使しているのだろう。
何十年も前に経験した転校の、あの胸がザワザワする感じ。それを「RPGオンラインコミュニティゲーム」の『MILU』で追体験できた。『MILU』の中では、アバター同士が交わす軽い挨拶を「リコメ」というのだが、この「リコメ」を私は実に軽やかにやってのけているのだ。このどうしようもなく人見知りの私が、である。確かに、生身が傷つくリアルの世界に比べて、ゲームの世界はいい意味で曖昧で優しい空間が拡がっているから、挨拶も気軽にスッとできるのだろう。それと、私も私なりに多少は世慣れてきたのかもしれない。
リアルな世界以上に、四季を身近に感じられるロケーション。そこで私達プレイヤーは、自身をアバターに投影させて、チャットや釣りを存分に楽しむのだ。そんな『MILU』の中で友だちになったRちゃんは風のような人だ。ここに居て、目の前の私と喋っているのだけど、ちょっと離れたところにいる友だちともコンタクトがとれている。一言で言うと、人との距離感のとり方が絶妙で、滑らかに人間関係を築いていける人である。『MILU』歴は私の方が長いのだが、いまやレベルも私より上だ。バディさんとの親密度も私より深い。だが私が何より羨ましいのは、人間関係において、嫌味なくソツのないところである。
Rちゃんだったら、転校も上手に対応することができて、すぐに転校を楽しい思い出にできるのだろうな。さて私は私なりに、転校でのギクシャクした借りを、『MILU』の人間関係の中で返せるかどうか。自分で自分に期待してみようと思う。
Writer ひねもす
