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私の人生、後悔すべき点は多々あれど、「運転免許」を取らなかったこと。この後悔に勝るものはない。もしも、免許を持っていれば、今より半径10キロ位は、活動範囲が広がっていただろう。そうしたら、運命を変えるような素敵な出会いもあったかもしれない。だが今、そんな夢みたいな、タラレバ話にうつつを抜かしている場合ではなかった。
《買物難民》。最近よく耳にする言葉である。意味を調べてみると、交通や流通機能の弱体化によって、食料品や日用品を買えない人々を指す。これまでは、過疎化の進んだ農村や山間部に限られた問題と思われていたが、近年では都市部でも同様の問題として顕在化している。
経済産業省の平成22年調査によると、買物難民・買物弱者は、全国に600万人いるとされていたが、平成27年調査では約700万人まで増加していることが分かった。この結果を踏まえて、政府は買物難民を全国的な問題として捉えるようになった。経済産業省から出された『買物弱者応援マニュアル』はその一例である。
だが残念ながら、政府の政策が確実に効果を上げているかというと、甚だ疑わしい。政府の予想よりも速いスピードで、事態は深刻化しているのだ。では民間はどうだろう? 調べていくうちに、株式会社『とくし丸』(2012年創業、本社:徳島市南末広町)という企業に行き着いた。2019年3月19現在、北は北海道から南は鹿児島まで全国規模で営業区域を拡大、合計380台の軽トラックを駆使して、買物難民の真に役立つ足を日々目指している。その姿勢は、創業地の「徳島」と社会事業や公共の福祉に貢献する「篤志」の意味が込められた社名通りと言えよう。
コスト削減で「軽トラ」を活用する移動スーパー『とくし丸』。そのコンパクトな荷台に積み込んだ商品は、約400品目、約1,200~1,500点にもなる。その品揃えは、前回訪問した際にお客様からリクエストされた商品がギッシリ。他にも、週2回の訪問で、お客様の嗜好や生活スタイルを把握したスタッフによる「オススメ商品」も搭載されていたりする。
だが、『とくし丸』は、売上を上げるために売りすぎることを良しとはしない。大切なお客様が、買いすぎて食品を捨ててしまうなんてことは、絶対にあってはならないと考えている。時には、3日前に購入したばかりの同じ商品を、また買おうとする場合など、「売り止め」することも。そうした行動が、お客様との信頼関係の構築に繋がるのだ。
移動スーパー『とくし丸』は、商品提供担当のスーパー、販売担当のパートナー、そして全体をプロデュースする『とくし丸』の三者が協力しあって成り立っている。そして、『とくし丸』を継続していくために考え出されたのが、 “+10円ルール” なのだ。これは1商品につき「+10円」をお客様にご負担いただくシステムである。これによって、事業継続を可能にする適正な利益を少しでもカバー出来ると考えたのだ。
もう1つ、『とくし丸』が守る殊勝なルールがある。“300mルール” と呼ばれるそれは、個人商店の営業に不利益を生じさせぬよう、「徒歩圏マーケット」と言われる半径300m以内には立ち入らないようにしている。
昨今、囲碁や将棋、チェス等のボードゲームの世界でAI(人工知能)と人間が対局するなどして、とかく両者は比較されがちである。私見だが、両者は同じ土俵の上で比較検討すべきものではないと思う。AIは、人の暮らしを便利にするために、そして人は、人を思いやるために存在し、それぞれの領域で特性を活かすべきではなかろうか。
『とくし丸』においては、お客様からリクエストがあったもの、リクエストから予想される次のニーズを予測するまでは、AIにも出来るかもしれない。だが、「売り止め」や “300mルール” 、 “+10円ルール” といった、微妙な匙加減や多方面への配慮を要する事案の場合は、人間のアタマで1つ1つ考えて答えを導き出さねばならない。マニュアル化出来ない問題に出くわした時こそ、人間の智慧を発揮すべき時なのだ。
舞台設定をRPGオンラインゲーム『MILU』に移して考えてみよう。はっきり言って『MILU』には、AIの入り込む余地はないだろう。『MILU』には、「マイページ」と呼ばれるSNS機能が備わっている。マイページでは、スクリーンショットや日記をアップロード出来るほか、訪問履歴を確認できるようになっているので、誰が自分のページに来てくれたかを確認できるのだ。それはまさに、リアルの世界の人間関係に匹敵するほどの「人との繋がり」を感じるだろう。そうは言っても、人に寄り添うことは、綺麗事だけでは済まされない。マニュアル化出来ないコトだらけで、しかしそこが魅力に繋がると言えよう。
「人間関係」と聞いただけで、(面倒だなぁ、嫌だなぁ)と思う人もいるかもしれない。でも一度、楽観的になって信じてみよう。貴方は解決できる、解決できなくても生きてはいける。その根拠のない自信は、誰も傷つけない。
Writer:ひねもす