大人になって「ありがとう」の言葉を口に出すと、とても照れくさい相手がいる。それは「親」だ。いざ、面と向かって発するには「恥じらい」が邪魔をする。例え、心の中では有難いと思っていても言葉にする際は、それなりの勇気を要するものだ。
生活の全てを親に依拠していた幼かった頃、平気で口にしていた「ありがとう」。
この感謝を伝える何気ない一言が、親との距離を置く思春期を迎える頃になると、口から出てこなくなるのは何故だろう。
自我に目覚める反抗期。それまで溢れるほどの愛情を注ぎ、懸命に育ててくれた親と対立。もどかしい程の後ろめたさを抱きながら、大人への階段を上る成長期には、親との接し方も変化する。急によそよそしくなって、妙に照れくさい症候群に陥る。
この世に生命を授けてくれた、かけがえのない親に対して、何故、素直になれないのだろうか。きっと、親離れする過程で待ち伏せる一種の洗礼なのかも知れない。
私自身、今以って後悔していることがある。生まれて此の方、親に一度も「花」を贈ったことが無い。堂々とプレゼント出来るはずの「母の日」でさえも、一度も無い。
言い訳になるが、少年時代を過ごした田舎には、需給バランスの関係上「花屋」そのものが存在しなかった。更に言い訳を述べると、世間の目を気にする質の私には、花屋の空間は似つかわしくないと、常々感じていたのでハードルが高かったのだ。
特に、食卓にはいつも花を飾っていた程、花が好きだった母親には懺悔の念が募る。実家に帰る度、狭い庭の片隅で精魂込めて花を育てていた在りし日の姿が瞼に浮かぶ。
黄泉の世界に旅立ってから随分経つが、きっとあの世でも花を愛でているのだろう。仏壇で微笑む遺影に花を供える度に悔やむ。「もっと素直になれば良かったな」と。
私が言うにはおこがましいが、訳あって親に花を贈る機会を逃してしまった方や、私同様に照れくささで躊躇されている方も、勇気を出して贈ってみては如何だろうか。
「親孝行、したい時には親は無し」。後悔塗れの親不孝の当事者が、後になって悟った戒めの「諺」を、どこか心の片隅にでも留め置いて頂ければ幸いである。
遅きに失したが、「感謝」を表す花言葉を持つ「花」が幾つあるのか調べてみた。
一体、どんな花を贈ったらいいのか判らず、迷っている方の参考になれたなら嬉しい。
【「感謝」の花言葉6種】
1、白のダリア 『感謝』『豊かな愛情』
（ナポレオン一世の王妃、ジョセフィーヌがこよなく愛したダリア）
2、カンパニュラ 『感謝』『誠実』『節操』
（ベル型の花が可愛らしい夏の花の1つ。その見た目から、
「釣鐘草」、「風鈴草」という別名もある）
3、ホワイトレースフラワー 『感謝』『細やかな愛情』『繊細』
（繊細な糸で編まれたレースのように花が集まって咲く、セリ科の植物）
４、バラ（ピンク） 『感謝』『おしとやか』
（種類が豊富なバラは、花の色によっても花言葉は異なり、
ピンクは「感謝」。本数や種類によっても花言葉が変わる）
５、ガーベラ（ピンク） 『感謝』『崇高美』『童心にかえる』
（花がパッと開いて、明るく可愛らしい印象のピンクのガーベラ）
６、カスミソウ（かすみ草） 『感謝』『無垢の愛』『幸福』
（ブーケやアレンジとしても、広く使われる名脇役の花）
他にもまだまだあるかもしれないが、取り敢えず以上6種類の「花」が見つかった。
あまり花の名前は詳しくないが、かなりポピュラーな花が並んでいる。もはや花屋を避ける理由は無い。これならいつでも気軽に、近所の花屋で調達出来そうだ。
今年もまた、亡母の命日が近づいてきた。相変わらず、照れくさい気持ちを抱いたままだが、法事の日は実家へ帰る途中「花屋」に寄って弔いの花を買い求めよう。
せめて私が好きな「カスミソウ」で、仏壇の一角を華やかに彩ってあげたいと思う。
Author：ブラック・スワン
